先生があなたに伝えたいこと / 【今村 史明】自分の家族なら、ということを常に考えて治療に当たっています。【小倉 宏之】予防こそが最善の治療です。【井石 琢也】患者さん個々に応じた治療が大切です。

先生があなたに伝えたいこと

【今村 史明】自分の家族なら、ということを常に考えて治療に当たっています。【小倉 宏之】予防こそが最善の治療です。【井石 琢也】患者さん個々に応じた治療が大切です。

独立行政法人地域医療機能推進機構大阪みなと中央病院 今村 史明 先生

独立行政法人
地域医療機能推進機構
大阪みなと中央病院

いまむら ふみあき
今村 史明 先生
専門:膝関節

今村先生の一面

1.最近気になることは何ですか?
 娘が年頃になり、私との会話が少なくなってきましたので少し寂しいです。

2.休日には何をして過ごしますか?
 筋トレを始め、休日には積極的にジムに通っています。実は若い医師が執刀する手術の際、手術がやりやすいように患者さんの体を保持しているんです。これは、私が先輩医師にしていただいていたことで結構体力がいるんですね。

独立行政法人地域医療機能推進機構大阪みなと中央病院 小倉 宏之 先生

独立行政法人
地域医療機能推進機構
大阪みなと中央病院

おぐら ひろゆき
小倉 宏之 先生
専門:骨粗鬆症

小倉先生の一面

1.最近気になることは何ですか?
 車好きの私としてはこれからどんな車が出てくるのか気になります。

2.休日には何をして過ごしますか?
 家電が好きなので家電量販店巡りをしに街に出ています。変わっているといわれるかもしれませんが、駅や空港が好きで、そこで電車や飛行機やたくさんの人の流れを見て時間を過ごすこともあります。なかなか楽しいですよ(笑)。

独立行政法人地域医療機能推進機構大阪みなと中央病院 井石 琢也 先生

独立行政法人
地域医療機能推進機構
大阪みなと中央病院

いせき  たくや
井石 琢也 先生
専門:膝関節

井石先生の一面

1.最近気になることは何ですか?
 阪神タイガースの成績が気になります(笑)。

2.休日には何をして過ごしますか?
 スポーツが好きなんです。毎週土曜日には野球、また体作りのためのランニングなどで体を動かしています。

先生からのメッセージ

自分の家族なら、ということを常に考えて治療に当たっています。(今村先生)
予防こそが最善の治療です。(小倉先生)
患者さん個々に応じた治療が大切です。(井石先生)

Q. 本日は膝関節の疾患についてお話をお伺いしたく、3名の先生方にお集まりいただきました。まずは膝関節の構造について教えてください。

今村先生:膝関節は大腿骨、脛骨(けいこつ)、膝蓋骨(しつがいこつ)から成っていて、人間の体の中で一番大きな関節です。関節というのは骨と骨が直接接しているわけではなくて、骨の表面をクッションの役割をする軟骨が覆っています。膝関節の場合にはさらに、大腿骨と脛骨の間にもうひとつのクッションである半月板が付着しています。また4つの靭帯が関節を安定させ、大腿四頭筋(だいたいしとうきん)や膝蓋腱(しつがいけん)が膝を伸ばし、膝屈筋(ひざくっきん)が膝を曲げる役割を担っています。

膝の靭帯の名称

大腿四頭筋と膝屈筋

独立行政法人地域医療機能推進機構大阪みなと中央病院 今村 史明 先生Q. では膝はどうして痛むのでしょうか? その主な疾患は?

井石先生:最も多いのは変形性膝関節症(へんけいせいひざかんせつしょう)です。軟骨がすり減って骨と骨が当たると痛みが出て、徐々に変形し、歩きにくい、曲げにくい、伸ばしにくいという膝になってしまいます。
今村先生:軟骨は、少々すり減っても神経がないので痛みを感じません。そのため、痛くなって病院に来られたときには、すでにかなりの軟骨がすり減っていることが多いのが変形性膝関節症の特徴です。
井石先生:ほかに、大腿骨が部分的に壊死を起こす大腿骨顆部壊死(だいたいこつかぶえし)というのがあります。これは脳梗塞と同じように細い血管が詰まり、血流が滞ることで起こります。治療法は変形性膝関節症とほぼ同じです。また、関節リウマチや外傷、特にスポーツをされている方には半月板や靭帯の損傷があります。
今村先生:半月板は、通常はドーナツのように真ん中が窪んでいるのですが、先天的に平らな方がいて、そういう方も損傷を起こしやすくなりますが、高齢の方で、思い当たる理由がなく膝が痛むというときには、まずは変形性膝関節症を疑うことになります。

変形性膝関節症

Q. 変形性膝関節症になりやすい人というのはあるのですか?

独立行政法人地域医療機能推進機構大阪みなと中央病院 小倉 宏之 先生今村先生:日本人の場合ではO脚気味の方ですね。体重のかかるラインは通常は膝の真ん中を通りますが、O脚の場合は膝の内側を通ります。そのため、年齢を重ねるにしたがって内側の軟骨が傷んでくるのです。仕事やスポーツで膝を酷使している方や、体重が重い、筋力が弱い方もリスクは高くなります。
井石先生:体重コントロールや、大腿四頭筋を始めとする膝の周囲の筋力トレーニングを継続することが、リスクを下げることにつながると思います。ウォーキングやプールで水中歩行、座ったり寝転んで行う膝に負担をかけないトレーニングもおすすめです。
小倉先生:ほどよい運動で骨に刺激を与えることは、骨を丈夫に保つことにもなります。私は"予防こそ最善の治療"が持論ですが、O脚の方には足底板を使うのも良いと思いますね。傾斜のついたインソールで、体重がバランスよく膝にかかるよう矯正できます。

大腿四頭筋を鍛える方法の例

足底版

Q. 変形性膝関節症の保存的治療では、ほかにどういうことをするのですか?

独立行政法人地域医療機能推進機構大阪みなと中央病院 井石 琢也 先生今村先生:軟骨の成分であるヒアルロン酸の関節内注射や、場合によっては痛み止めも使って経過観察をします。痛みが改善して生活に大きな支障がなければ、手術をせずに小康状態を維持することも十分に可能です。
井石先生:保存的治療を行っても変形が進行してしまい、痛みが改善しなければ手術が検討されます。

Q. 手術には段階に応じて種類があるのでしょうか?

今村先生:虫歯になった時に例えると、いくら治療で温存しようと思っても難しい場合は差し歯になります。膝関節もそれと同様、軟骨も半月板も骨の状態も悪くて温存ができないと、そこを全部取り除いて人工物に換えるのです。しかし、人工物ですから耐用年数の問題があり、40代や50代の若い方の場合、70代~80代で入れ換えないといけなくなる可能性が高くなります。そのため、O脚で内側の軟骨や骨だけが傷んでいるという場合は、骨を温存する高位脛骨骨切り術(こういけいこつこつきりじゅつ)が選択肢として優先されます。これは、脛骨の一部を切って膝関節の形状を整えることによってO脚を矯正し、軟骨の傷んでいない外側に荷重がかかるようにして痛みを取る手術です。この骨切り術で骨がつけばそれで一生大丈夫な場合もあります。

高位脛骨骨切り術

Q. 片側の軟骨だけが傷んでいて、かつ高齢の方にはどういう手術が適応になりますか?

井石先生:骨切り術は、骨がしっかりつくまで体重をかけられないため、歩く練習がすぐにはできません。高齢の方は寝たきりの状態を長くしない方が良いので、その場合は軟骨の傷んでいるほうだけを人工物にする単顆人工膝関節置換術(たんかじんこうひざかんせつちかんじゅつ)という方法があります。

単顆人工膝関節置換術

単顆人工膝関節置換術

Q. 若い方でも軟骨全体が摩耗し変形してしまっている場合は、人工膝関節置換術の適応になりますか?

井石先生:若い方でそこまで変形していることは多くはありませんが、外傷が原因で変形性膝関節症へ移行するケースがあります。
今村先生:それと、関節リウマチも関節全体に炎症が起きるので、関節が破壊されてしまう場合は、若い方でも人工膝関節の適応となります。

Q. 具体的に、人工膝関節の耐用年数はどれくらいなのですか?

今村先生:実際には現時点から20年後、30年後の結果をみないとはっきりしたことはいえませんが、人工膝関節の軟骨にあたるポリエチレン部分の材質がとても進歩して、摩耗のリスクがかなり低減しました。おそらく30年以上は大丈夫なのではないでしょうか。ただし、若い方は活動範囲も運動量も多いので、耐用年数は短くなるかもしれません。

Q. ほかには人工膝関節や、その手術方法にどのような進歩がありましたか?

独立行政法人地域医療機能推進機構大阪みなと中央病院 小倉 宏之 先生 井石 琢也 先生井石先生:日本人の膝にあったサイズバリエーションが豊富になったことや、人工膝関節が人の膝の形状に近くなり、より自然な動きが獲得できるようになってきました。
今村先生:手術法については、極端にいえば、昔は骨を切って設置するだけというイメージでした。しかし現在では、一人ひとり違っている膝関節の形状に合わせて骨を切って正確に設置し、靭帯などの軟部組織のバランスを整えて、ストレスなく安定した膝関節にできるようになりました。
小倉先生:ストレスのない膝関節で痛みなく歩いていただくことは、我々が目指している"健康寿命を延ばす"ことにもつながります。健康で長生きできれば、ご本人だけでなく介護負担を減らすことができ、ひいては日本の医療財政にも良い影響を与えます。
今村先生:患者さんによっては人工膝関節手術の前後に、骨を強くする注射を使うということも行うようになりました。こうしたことも長期成績の向上につながっていると思います。

Q. 人工膝関節手術の入院期間はどれくらいですか?

独立行政法人地域医療機能推進機構大阪みなと中央病院 今村 史明 先生今村先生:翌日からリハビリをして3週間くらいです。お年寄りの患者さんではリハビリを頑張り過ぎて、続かなくなってしまうこともあります。我々としては、焦らずにゆっくりリハビリしていただければと思っています。もちろん、早く退院できるのは理想的ですが、その方の状況とペースに合わせたリハビリ・スケジュールが優先されるべきです。

Q. 退院後の患者さんにアドバイスをお願いします。

井石先生:せっかく手術をしたのですから、存分に歩いて人生を楽しんでいただきたいです。歩くこと自体がリハビリにもなります。その上で、自宅で筋力トレーニングを継続していただきたいと思います。
今村先生:そして、定期検診にはきちんと来ていただくことがとても重要です。万一、具合が悪くなったとしても、何事も早期なら大事に至らなくて済みます。

Q. ありがとうございました。最後に、先生方が治療される上で大切にされていることをお聞かせいただけますか?

独立行政法人地域医療機能推進機構大阪みなと中央病院 今村 史明 先生 小倉 宏之 先生 井石 琢也 先生小倉先生:患者さんは病院へ来られるときには悩みや迷いを抱えておられます。先ほど、"予防は最善の治療"といいましたが、変形性膝関節症になってしまったのなら仕方ありませんよね。それ以上進行しないためにはどうすれば良いか、手術を含めてどのような治療法があるのかお話しして、「より良い人生のための治療」だということを理解していただくようにしています。診察室から出て行かれる際に、少しでも楽な気持ち、できれば笑顔になっていただける、そんな存在でありたいと思っています。
井石先生:膝関節の手術というのは、骨折などと違って絶対に治療が必要というものではなく、患者さんが「痛みのない生活を取り戻したい」、「もう一度歩きたい」と決心されて行うものです。その願いに応えるためにも、患者さんの生活環境、仕事、ライフスタイルなど個々に応じた適切な治療、手術、術後のケアを大事にしたいと思っています。
今村先生:私がいつも心がけているのは、自分の家族と同じように患者さんに接して治療することです。「もし患者さんが自分の家族なら」、ということを常に考えるようにしています。

Q. 最後に患者さんへのメッセージをお願いいたします。

今村 史明 先生・小倉 宏之 先生・井石 琢也 先生からのメッセージ

※ムービーの上にマウスを持っていくと再生ボタンが表示されます。

取材日:2016.8.1

*本文、および動画で述べられている内容は医師個人の見解であり、特定の製品等の推奨、効能効果や安全性等の保証をするものではありません。また、内容が必ずしも全ての方にあてはまるわけではありませんので詳しくは主治医にご相談ください。

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