先生があなたに伝えたいこと
【勝田 紘史・佐竹 信爾】患者さんに満足していただくために、丁寧に向き合う治療を行っていきたい。
医療法人はぁとふる 運動器ケア しまだ病院
かつだ ひろし
勝田 紘史 先生
専門:人工股関節・人工膝関節・整形外科一般
勝田先生の一面
1.最近気になることは何ですか?
今後、高齢化社会が進むにあたり社会保障のニーズが高まる事は間違いありません。しかし、医療・介護ニーズは高まる一方で社会保障費の財源確保は難しいと予想されます。限られた医療資源の中での医療提供が求められるようになります。我々は、いかに効率的で質の高い医療を提供するにはどうすれば良いか。また、地域にとっての我々の役割は何なのかなどを考えています。
2.休日には何をして過ごしますか?
4人の子供達のそれぞれの遊びに奮闘しています。
Q. まずはじめに、関節の構造や仕組みについて教えてください。
佐竹先生:関節には大きく分けて「球(きゅう)関節」と「蝶番(ちょうばん)関節」の2種類があります。人間の体で球関節なのは股関節と肩関節で、受け皿になる骨とそこにはまる球状の骨でできています。球状なので、あらゆる方向に自由に動かすことができるのが特徴です。一方、膝や肘などは蝶番関節と呼ばれます。肘の関節は曲げるか伸ばすかの一方向にしか動かず、まさに蝶番の形状ですが、膝は少し複雑です。膝の関節は、屈伸するときただ一方向に曲がるのではなく、後ろにねじれて滑りながら曲がっていきます。
勝田先生:さらに、内側と外側で骨の滑り方が違うんです。「メディアルピボット」といって、バスケットのピボットターンをイメージすると分かりやすいのですが、内側を軸にして外側が滑るような動きをするんです。ですので、上から見るとねじれながら、横から見ると滑りながら曲がっていくのがわかります。このように、膝の関節はねじれながら動くことから「螺旋(らせん)関節」とも呼ばれています。
Q. こちらで手術される患者さんに多い関節の疾患は何でしょうか?
勝田先生:股関節、膝関節ともに変形性関節症(へんけいせいかんせつしょう)がもっとも多いですね。手術される患者さんの9割が変形性関節症です。
Q. 変形性股関節症(へんけいせいこかんせつしょう)の原因について教えてください。
佐竹先生:十数年前まで、変形性股関節症の原因で最も多いのは先天性股関節脱臼でした。昔は赤ちゃんの足をまっすぐにしようと不自然な姿勢を取らせたり、脱臼が健診で見逃されたりということが多くありました。近年、健診が充実してきたことで股関節脱臼は減りました。しかし、変形性股関節症自体は増えていて、手術数も増えています。
Q. なぜ増えたのでしょうか?
佐竹先生:これまで変形性股関節症は主にレントゲンによって診断されていました。股関節脱臼や、生まれつき股関節の発育に問題がある先天性臼蓋形成不全(せんてんせいきゅうがいけいせいふぜん)などが原因の場合は、レントゲンではっきりと変形が認められることがほとんどです。しかし、レントゲン上では変形が見られないのに痛みが出るというケースが増えてきました。以前はそういった症状をすべて「一次性」といい、加齢に伴って軟骨が摩耗することが原因だとされていましたが、最近になって「FAI(エフ・エー・アイ:大腿臼蓋インピンジメント)」という疾患があるということがわかってきたんです。
Q. FAIとはどんな病気なのでしょうか?
佐竹先生:本来まん丸である大腿骨頭に出っ張りがあったり、股関節を安定させる働きをする関節唇(かんせつしん)という軟骨にひずみが出ることにより、股関節が動くたびに少しずつ軟骨や骨が損傷する疾患です。それが原因となって、将来的に変形性股関節症に移行するケースが増えているんです。
勝田先生:けがやスポーツでの激しい動きが引き金になるともいわれていますが、確実なエビデンス(証拠)は得られていません。
Q. FAIは最近までわからなかった疾患なのですね。
勝田先生:はい。以前から股関節にしても膝関節にしても、レントゲンでは大した変形が見られないのにひどく痛みを訴える患者さんがいました。痛みの感じ方は人それぞれなので、性格によるものだと片付けていた時代もありましたが、MRI検査が一般的になったことで、それまでわからなかった疾患がわかるようになったんです。例えば、原因がはっきりしないまま骨が壊れてしまう特発性骨壊死症(とくはつせいこつえししょう)などもレントゲンには写りませんから、見逃されてきたのではないかと思います。
Q. 関節が破壊される疾患は他にもありますか?
勝田先生:ご高齢の方に多いのですが、ちょっとした外傷が原因で骨が傷み、そのまま急激につぶれてくる急速破壊型股関節症というのもあります。活動的な高齢者が増加し思わぬけがをされてしまったり、骨粗鬆症(こつそしょうしょう)になっていたりすることが原因でこのような疾患も増えています。
Q. 関節の変形や破壊が見られる場合、やはり手術が必要なのでしょうか?
勝田先生:変形がひどくても、すぐに手術になるわけではありません。リハビリなどの運動療法によって痛みが改善されるケースもありますし、何よりも患者さん自身がどういう生活を望んでおられるかによって変わってきます。手術は選択肢のうちの一つです。
佐竹先生:痛いか痛くないかではなく、患者さんが何を希望されているかが大切です。「痛くても手術は嫌だ」という方がいれば、リハビリや薬をどう組み合わせていくかを考えますし、逆にすぐ手術する必要がなくても、将来的なことを考えて早めにしたいという方もいらっしゃる。タイミングは人それぞれですので、納得いくまで一緒に考えるようにしています。
Q. リハビリによって手術の必要がない場合もあるということですが、具体的にどういったことが行われているのでしょうか?
勝田先生:リハビリというと筋トレやストレッチなどを想像されるかもしれませんが、それだけではありません。体はどんな動きをするにしても、一つの関節だけに負担がかかるわけではありません。例えば、膝が痛いのであれば、膝の負担を軽減するための体の動かし方があります。そういった、体の上手な使い方やコントロール方法をレクチャーするのもリハビリの大切な役割です。体の状態や効果的な動かし方は患者さんによって違うので、マニュアル化することは難しいものです。患者さん一人ひとりに合わせた、理学療法士によるリハビリが大切なのです。
Q. 実際の手術はどのようなものでしょうか?
佐竹先生:人工股関節手術ではMIS(エム・アイ・エス:最小侵襲手術)で傷口を小さくするようにしています。また、脱臼を防ぐために切開は体の前方側または前側方側から行い、さらに早い回復が期待できる筋間アプローチ(筋肉を切らない方法)を採用しています。もちろんこれらは適用できない方もいますので、しっかり術前計画を立て、最も適した方法で行うように努めています。
一方で、人工膝関節の手術ではMISを行っていません。なぜなら膝関節の場合では、構造が股関節に比べて複雑になっているために、靭帯のバランスを整えるなどの手順が必要となり手術が複雑になるからです。いずれにしても、傷を小さくすることにこだわらずに、人工関節を事前の計画通りに正確に設置することに重きを置いています。
Q. 手術後のリハビリについてもお聞かせください。
佐竹先生:この病院では玄関やキッチン、和室など、家の中を再現し、実生活の動作をシミュレーションできる設備を導入しています。また、理学療法士が患者さんの自宅を訪問し、手すりなどの退院後の生活に必要な設備や生活面での注意点を考え、リハビリ計画を作り指導しています。
Q. 最後に、先生が整形外科医になられて良かったと思うエピソードをお聞かせください。
勝田先生:他の施設では手術といわれていたのに、先生に診てもらって手術しなくて済んだと話されたり、運動療法を経た上でここで手術を受けてから不自由がなくなったと話されると良かったなと思います。
佐竹先生:人工関節手術を受けられた患者さんが「やって良かった!」といってくださることがうれしいです。90歳で膝関節の手術を受けられた後、植木屋さんとして現役で木に登っていらっしゃる方や、グランドゴルフのパフォーマンス向上のために手術を受けられた88歳の女性など、人工関節手術をしたことで元気にご活躍されている話を聞くたびに、私も元気をいただきます。
Q. 最後に患者さんへのメッセージをお願いいたします。
取材日:2016.10.20
*本文、および動画で述べられている内容は医師個人の見解であり、特定の製品等の推奨、効能効果や安全性等の保証をするものではありません。また、内容が必ずしも全ての方にあてはまるわけではありませんので詳しくは主治医にご相談ください。
先生からのメッセージ
手術だけでなく、リハビリも大切な治療です。(勝田先生)
関節の状態や生活の状況などは患者さんによって違います。患者さんに応じた治療が大切です。(佐竹先生)