先生があなたに伝えたいこと
【高山 柄哲】骨粗鬆症の予防には、若い頃から食事内容を意識し、体内にカルシウムを蓄積しておくことが大切です。【小林 環】椎間板ヘルニアには患者さんの年齢や生活背景を考慮しながら最適な治療法を提案しています。
社会福祉法人 京都社会事業財団 京都桂病院
たかやま もとひろ
高山 柄哲 先生
専門:脊椎・脊髄疾患
高山先生の一面
1.最近気になることは何ですか?
妻に日頃支えてもらっているので、家事で少しでも助けになりたいと思っています。まずは皿洗いを極めたいとあれこれ工夫してだいぶコツがつかめてきました。
2.休日には何をして過ごしますか?
気になる文献を調べたり、家事をしたりして過ごしています。
社会福祉法人 京都社会事業財団 京都桂病院
こばやし たまき
小林 環 先生
専門:脊椎・脊髄疾患
小林先生の一面
1.最近気になることは何ですか?
子どもの成長です。下の子が4ヵ月になって最近笑うようになり、寝返りを打つようになりました。
2.休日には何をして過ごしますか?
子どもにつきっきりです。6歳になる上の子と一緒に縄跳びなどをして遊んでいます。
このインタビュー記事は、リモート取材で編集しています。
Q. 脊椎の代表的な疾患について教えてください。
A. 小林先生:腰部脊柱管狭窄症(ようぶせきちゅうかんきょうさくしょう)や椎間板ヘルニア(ついかんばんへるにあ)、高齢の女性の方には、骨粗鬆症を背景に背骨が折れてしまう脊椎椎体骨折(せきついついたいこっせつ)、いわゆる圧迫骨折が多くみられます。いずれも背骨が変形して痛みが出てくることで受診される方が多いです。
腰部脊柱管狭窄症では脊椎の中にある脊柱管(せきちゅうかん)という神経の通り道が狭くなって神経が圧迫され、手足や腰に痺れや脱力、痛みが起こるようになります。椎間板ヘルニアは背骨の骨と骨の間にあるクッションのような椎間板(ついかんばん)という組織が飛び出して神経を圧迫することで痛みが起こります。
Q. 背骨の変形が起こる原因は何でしょうか?
A. 高山先生:一番の原因は加齢です。背骨は10代後半から老化が始まるとされ、椎間板の老化が進むと、本来椎間板が持つクッション性が損なわれ、骨が変形していきます。椎間板に負荷のかかる仕事や病気をお持ちの方は椎間板の老化が進みやすくなります。
Q. 日常生活で気を付けるべき動作などはありますか?
A. 高山先生:背骨は体を支える大事な骨で、周囲の筋肉が重要な役割を果たしていますから、筋肉の収縮が強くなる動作には要注意です。中腰で脚を伸ばしたまま前屈みになる、こたつに入って脚を伸ばすといった動作は腰椎に負担がかかります。両脚を前に投げ出して行う車の運転も、腰の筋肉に力が加わって筋肉が突っ張り、骨に負担がかかるので、気を付けていただきたいと思います。腰の筋肉を使っていると感じられる姿勢や動作は、骨にも負担がかかっているといってよいでしょう。
そのため、患者さんには「できるだけきちんと椅子に座って股関節や膝関節をしっかり曲げて、背筋や腰の筋肉に負担のかからない姿勢で過ごしてください」とお伝えしています。
Q. 脊椎椎体骨折と椎間板ヘルニアについて詳しく教えてください。具体的には、どのような症状があらわれるのでしょうか?
A. 高山先生:脊椎椎体骨折は骨粗鬆症で骨が脆くなることによって起こる圧迫骨折で、軽微な骨折と重度の骨折があります。軽微な骨折の場合、症状として痛みがあらわれ、重度になると、痛みに加えて骨の形が変わり、周囲の靭帯や神経、血管にも影響が及びます。神経に影響が及ぶと、運動麻痺や感覚障害、排尿・排便障害が起こることがあります。
小林先生:椎間板ヘルニアは椎間板という骨と骨の間にあるクッションが飛び出してしまう病気で、初期はヘルニアが飛び出した箇所が痛みます。腰から脚にかけて鋭い痛みが生じることが多いです。
Q. 脊椎椎体骨折と椎間板ヘルニアの治療方法について教えてください。
A. 高山先生: 脊椎椎体骨折に関しては、私たち医師が広く啓蒙する必要がありますが、若いときから骨をつくる成分を食事からしっかり摂っておくことです。10代から意識して体内にカルシウムを十分蓄積することで、女性であればホルモンバランスが変化する更年期を過ぎても骨折が起こりにくくなります。
治療法には、軽度の場合は骨を強くする飲み薬などを使って様子をみます。体を支える骨自身が潰れて神経を圧迫している重度の場合には手術が必要です。手術には金具を使って折れた背骨を固定する固定術と、神経を圧迫する骨を取り除く除圧術、あるいは折れた背骨の中に骨セメントを注入して弱くなった骨をサポートする椎体形成術(ついたいけいせいじゅつ)などの方法があり、症状に応じて治療法を検討します。
小林先生:ヘルニアは人間にとって異物で、1~3ヵ月程度で体内に吸収され、症状が治まることが多いです。ヘルニアが飛び出さないよう荷重をかけずに安静にしていただくことが一番で、症状に応じて痛み止めやコルセットを使います。椎間板の中にヘルニアを小さくする薬剤を注射して神経の圧迫を取り、痛みをやわらげる方法もあります。
ただ、患者さんによってはすでに服用している薬があり、痛み止めとの相性が悪くて薬が効かなかったり、副作用が起こったりすることがあります。そういう方や数ヵ月経っても痛みがひかない場合には、飛び出したヘルニアを取り除く外科的治療を検討します。患者さんの年齢や社会的背景に応じて最適な治療を提案させていただくよう努めています。
Q. 実際の手術はどのようなものになりますか? 手術方法も進歩しているのでしょうか?
A. 高山先生:脊椎椎体骨折では、椎体内に針を注入して風船をふくらませ、その中に骨セメントを入れて折れた骨を修復するBKP(経皮的椎体形成術:Baloon Kypoplasty)という体への負担の少ない手術が広く普及しています。
小林先生:椎間板ヘルニアの手術は、以前は顕微鏡を使った手術で4~5cmほどの皮膚切開が必要でしたが、近年は内視鏡を使ったFESS(全内視鏡下脊椎手術:Full-Endoscopic Spine Surgery)と呼ばれる手術が普及し、7mm程度の切開で済むようになりました。手術時間も短く、患者さんへの負担も少なくなり、術後の回復も早くなっています。
Q. 手術後のリハビリはどのようなものになりますか? 退院までのスケジュールについても教えてください。
A. 高山先生:症状の軽い方であれば手術翌日~数日後には動けるようになり、2週間程度で退院できます。中等度でも神経障害の起こっていない方であれば早期の社会復帰が可能です。ただ、神経障害があり、大がかりな手術になる場合は、退院までに数ヵ月かかることもあります。
リハビリは、症状が起こってからできなくなった日常生活動作を回復させるための運動メニューが中心です。社会復帰、家で作業できるようになるなど患者さんの症状と目的に応じて、できる動作、できない動作を拾い上げて一人ひとりに応じたオーダーメイドのリハビリ内容となります。
Q. 脊椎椎体骨折や椎間板ヘルニアを予防することはできますか?
A. 小林先生:腰や背骨周辺の筋肉をある程度鍛えておくこと、できるだけ歩くことが大切です。腹筋や背筋を鍛えることで腰回りの筋肉が鍛えられますし、歩くことで体幹が鍛えられます。
Q. よくわかりました。先生方が医師を志されたきっかけがありましたら教えてください。
A. 高山先生:手塚治虫先生の漫画『ブラック・ジャック』の影響です。医学生時代に各診療科をまわって勉強する機会があり、呼吸器と脳神経の造形の美しさに感激して脳神経外科を選びました。
小林先生:私も『ブラック・ジャック』の影響が大きいです。背骨の手術を受けられた患者さんの中には術後劇的によくなる方が多く、苦しんでおられる方が日常生活を楽に送れるようになる手助けをしたいと思いました。
Q. 最後に患者様へのメッセージをお願いいたします。
リモート取材日:2022.12.23
*本文、および動画で述べられている内容は医師個人の見解であり、特定の製品等の推奨、効能効果や安全性等の保証をするものではありません。また、内容が必ずしも全ての方にあてはまるわけではありませんので詳しくは主治医にご相談ください。
先生からのメッセージ
骨粗鬆症の予防には、若い頃から食事内容を意識し、体内にカルシウムを蓄積しておくことが大切です。(高山先生)
椎間板ヘルニアには患者さんの年齢や生活背景を考慮しながら最適な治療法を提案しています。(小林先生)