先生があなたに伝えたいこと
【原田 智久】目の前の結果ではなく、患者さんの5年後、10年後を考えて治療することが大切です。【槇尾 智】自分や自分の家族ならどのような治療を受けたいか、それを考えながら治療にあたっています。
洛和会丸太町病院 脊椎センター
はらだ ともひさ
原田 智久 先生
専門:脊椎
原田先生の一面
1.最近気になることは何ですか?
年々多忙になるにつれ運動不足を感じており、自分の健康が気になっています。
2.休日には何をして過ごしますか?
もともとスポーツが好きなのですが、学会や講演などでなかなか休日が取れません。
洛和会丸太町病院 脊椎センター(現 綾部市立病院)
まきお さとし
槇尾 智 先生
専門:脊椎
槇尾先生の一面
1.最近気になることは何ですか?
応援しているサッカーチームの試合結果が気になります。
2.休日には何をして過ごしますか?
社会人リーグに所属していて、月に1回、サッカーをやっています。
Q. 脊椎と脊髄の疾患についてお伺いします。まず、脊柱変形(せきちゅうへんけい)について教えてください。
原田先生:脊柱は骨と軟骨が重なってできています。年齢を重ねると軟骨がすり減り、脊椎が少しずつ傾いていきます。それが負担になって、他の軟骨も同じ方向に摩耗していきます。それとともに、加齢によって筋肉や骨も弱っていき、どんどん傾きが大きくなっていきます。それが成人脊柱変形です。前に傾くのが後弯(こうわん)、横に傾くのが側弯(そくわん)です。背骨が曲がると常に中腰になっているのと同じ状態になるので、腰に痛みが出て、ひどいときには歩くことも困難になります。
Q. 脊柱が曲がることで痛み以外にどんな症状が出ますか?
原田先生:中を通る神経が圧迫されることでしびれが出たり、体が曲がることで胃が圧迫されて逆流性食道炎を起こす人もいます。 脊柱変形を起こしている人の3分の1が胃の炎症を併発しているともいわれています。
Q. 胃を傷めて食が細くなることで、より骨が弱くなってしまうのでは?
原田先生:そうなんです。 そこまで変形が進んでいると運動もできませんから、筋力も骨も弱くなって悪循環になります。
Q. そういう方はやはり手術が必要なのでしょうか?
原田先生:腰が曲がることで立ったり歩いたりができない、炊事もできないなど、日常生活に支障を来すような場合や、明らかに弯曲が進んでいるような場合には手術を考えます。
Q. 脊柱を矯正する手術となると、かなり大きな手術になるのでは?
原田先生:一般的には背中を大きく切開して、曲がっている骨をひとつひとつ矯正する手術が必要になります。しかし、ご高齢の方にとって出血も多く、感染症や肺炎などの合併症のリスクのある大きな手術が良いのかというジレンマがありました。ところが最近、切開部が小さくて済む手術方法が考案されました。
Q. それはどんな方法なのですか?
原田先生:背中を大きく切らずに皮膚を通してスクリュー(ネジ)を入れて、金属のロッド(棒)でつないでいく手術です。筋肉を剥がしたり、骨を削ったりする必要がなく、出血も従来の方法に比べて5分の1程度で済みます。しかし、従来の方法と比べると特殊な技術が必要で手術の難易度が高く、全国でもまだあまり行われていない方法です。
Q. 患者さんの体へのダメージが少ないのは大きなメリットですね。
原田先生:体への負担の少ない手術なので、これまで手術が難しかった高齢者にも行いやすくなり、早い段階に行えば変形の進行を食い止めることができます。ただし、この手術は決して腰を若返らせるものではありません。あくまでも支えを作って変形を止める方法であり、本来の脊椎の動きを固定するものなのです。脊椎に金属の棒が入るので、背中を曲げることが難しくなります。したがって、変形があっても痛みなどの症状がない人には行いません。
Q. ところで、脊柱変形はどんな方に多いのですか?
原田先生:加齢による骨と軟骨の経年劣化が主な原因のため、高齢者がほとんどです。また、骨粗鬆症(こつそしょうしょう)による脊椎の骨折が原因になっていることも多いので、女性に多い疾患です。
Q. 骨粗鬆症による脊椎の骨折とは、いわゆる「圧迫骨折」のことですか?
原田先生:そうです。圧迫骨折とは、骨粗鬆症によって弱くなった背骨が、ちょっとした日常の動作でつぶれてしまう病気です。たとえば、後ろから名前を呼ばれて振り向いた拍子に起こることもあります。
Q. そもそも骨粗鬆症とは、どんな病気なのでしょうか?
槇尾先生:女性は閉経を迎えると女性ホルモンの分泌が低下します。それに伴って骨がもろくなり、骨折を起こしやすくなる病気です。
原田先生:骨というのは表面が固く、中は蜂の巣のように空間のある構造になっています。骨粗鬆症になると、その蜂の巣の穴が徐々に大きくなって骨の中がスカスカになります。
槇尾先生:それによって、ちょっとした段差や腰をひねるなどの小さな衝撃でも骨折を起こすのです。健康な骨は、折れても固定することでくっついて治りますが、骨粗鬆症では骨そのものが弱っているので回復に時間がかかります。
特に背骨は、コルセットやギプスで固定しても完全に動きを止めることができないために治りにくく、治ったとしても曲がったまま骨が固まって、脊柱変形になることもあります。また、圧迫骨折の痛みは猛烈なもので、寝返りさえ打てなくなることもあります。このような日常生活をおくることができなくなってしまった場合には、つぶれた骨にセメントを注入して固めてしまうことで痛みを取る手術があります。
Q. どうやって骨にセメントを注入するのですか?
槇尾先生:レントゲン画像を見ながら背中を左右5mmほど切開し、折れている骨の中に管を入れます。まずは、そこからしぼんだ状態の風船を入れて膨らましてスペースを作ります。次にその風船をしぼませて抜き、できたスペースにセメントを流し込んで骨をしっかりさせるのです。傷が小さいので痛みも少なく、翌日から歩くことも可能です。手術時間は30〜40分で、退院も1週間程度です。
原田先生:ただし、骨粗鬆症が治るわけではありませんので、継続的に骨粗鬆症の治療も必要です。
Q. 骨粗鬆症の治療はどのように行われるのですか?
槇尾先生:主な治療法は、テリパラチドという副甲状腺ホルモン製剤の注射です。骨は日々自らを作っては壊すを繰り返すことで健康な状態を保っています。骨粗鬆症では、少し作ってはたくさん壊すというサイクルになっているので、それを改善するための薬です。
あとは、ウォーキングなどの運動を定期的に行うこと、バランスの良い食事を心がけること、また、適度に日光を浴びることも大切です。日に当たることで骨の代謝が促されるのです。
Q. 骨を強く保つために、心がけてほしいことはありますか?
槇尾先生:将来の骨粗鬆症のリスクを上げないために、食事を抜くなどの無理なダイエットは危険です。きちんと栄養を取らなければ骨は弱くなり、閉経後にはさらに輪をかけてもろくなっていきます。若いうちから骨を大切にしてほしいと思います。
Q. 治療にあたり、先生方が大切にされていることは何ですか?
原田先生:基本的に手術はやらないに越したことはないと考えています。ただ、放っておけば進んでしまう、あるいは薬などでは治癒を見込めない場合には手術をせざるを得ません。そのときに、患者さんが5年後、10年後に元気に過ごせているかを考えて治療法を選択するように心がけています。
槇尾先生:自分や自分の家族が同じ立場だったら、と考えながら治療法を決めるようにしています。
Q. 最後に患者さんへのメッセージをお願いいたします。
取材日:2017.5.17
*本文、および動画で述べられている内容は医師個人の見解であり、特定の製品等の推奨、効能効果や安全性等の保証をするものではありません。また、内容が必ずしも全ての方にあてはまるわけではありませんので詳しくは主治医にご相談ください。
先生からのメッセージ
目の前の結果ではなく、患者さんの5年後、10年後を考えて治療することが大切です。(原田先生)
自分や自分の家族ならどのような治療を受けたいか、それを考えながら治療にあたっています。(槇尾先生)