先生があなたに伝えたいこと / 【笠原 仁菜】症状や生活スタイルに合わせて、患者さん一人ひとりに合ったオーダーメイドの治療を行っています。

先生があなたに伝えたいこと

【笠原 仁菜】症状や生活スタイルに合わせて、患者さん一人ひとりに合ったオーダーメイドの治療を行っています。

独立行政法人 国立病院機構 宇多野病院 笠原 仁菜 先生

独立行政法人 国立病院機構 宇多野病院
かさはら にな
笠原 仁菜 先生
専門:股関節膝関節

笠原先生の一面

1.最近気になることは何ですか?
 小学生の子どもたちと一緒に、生き物を飼ったり、植物を育てたりする中で、私自身が学ぶことがたくさんあります。いろいろなことを発見したり、調べて知識を得たりすることはとても楽しいです。子どもたちにいろいろな経験をさせて、視野を広げてあげたいと思っています。

2.休日には何をして過ごしますか?
 よく、子どもたちのお友達を自宅に招いています。この夏は、毎週のように40人ぐらい集まって、流しそうめんで盛り上がりました。仕事と家庭の両立は、大変な時もありますが、子どもたちとワイワイ楽しむことが元気の源になっています。

先生からのメッセージ

症状や生活スタイルに合わせて、患者さん一人ひとりに合ったオーダーメイドの治療を行っています。

Q. まず股関節の構造について教えてください。

A. 骨盤側にある寛骨臼(かんこつきゅう)という丸いくぼみに、大腿骨の先端の丸い大腿骨頭(だいたいこっとう)がはまり、お椀の中でボールがくるくると動くような構造になっています。股関節は、膝や肘などのように単に曲げ伸ばしするだけでなく、外側に開く動作などもできる特殊な関節です。寛骨臼の縁には、大腿骨頭を抱きかかえるように股関節唇(こかんせつしん)という軟骨組織があり、関節包(かんせつほう)が寛骨臼と大腿骨頭を覆って関節を安定させています。
歩くことができなくなると、筋力が衰え、体のほかの部分にも影響を及ぼし、体力や心肺機能まで落ちていきますから、 日常生活の基本動作となる歩行を司る股関節は、重要な関節です。

股関節の構造

関節包 関節唇

Q. 股関節に問題が生じると、どんな症状が出てくるのですか?

A. 歩行し始めるときだけ痛みが出るという症状から始まり、長く歩いたときも痛みが出る、杖などの自助具に頼らないと歩けなくなる、さらに進行すると就寝時も痛みがあるという方もいます。患者さんの中には、病院ではっきりと診断が下されることを恐れて受診を先延ばしにされ、歩けなくなってから来院されるような方もいらっしゃいます。特に高齢の方は、歩けないことで引きこもりがちになると、心肺機能や認知機能の低下など様々な問題を生じて介護が必要となる可能性もあるので、早めに受診することが大切です。

Q. 股関節の疾患として多いものは何ですか?

A. 平均寿命が延びている現在、多いのは筋力の低下とともに症状が進みがちな変形性股関節症(へんけいせいこかんせつしょう)です。以前は、大腿骨頭を覆う寛骨臼の被りが少ない寛骨臼形成不全(かんこつきゅうけいせいふぜん)から、二次性の変形性股関節症になる方が大半でした。しかし最近は、骨粗鬆症(こつそしょうしょう)を持つ方が、段差を踏み外すなど軽微な外傷で骨がつぶれるような骨折を起こし、それをきっかけに変形性股関節症に進行する方も増えてきています。ほかには、ステロイドやアルコールの大量摂取によって起こるといわれる、大腿骨頭壊死症(だいたいこっとうえししょう)などが挙げられます。

変形性股関節症

正常 寛骨臼形成不全

Q. 治療はどのように進めていくのですか?

A.レントゲンを撮ったり関節の動きを診察したりして関節の状態を把握することに加え、日常生活にどんな支障をきたしているのか、どの程度お困りなのか、患者さんの話をお聞きして治療法を提案します。それは、レントゲン所見で同じような骨の状態の方がおられたとしても、本人が感じる症状には差があるからです。中には、痛みの原因を知りたいだけという方もおられますので、そうした方には関節の状態を説明して、股関節に負担をかけないための体重コントロールや運動療法についてアドバイスするだけの場合もあります。痛みで困っておられる方には痛み止めの薬を処方したり、歩行が辛い方には杖をお勧めしたりしますが、それでも改善せず、日常生活に大きな支障が出る方には手術をご提案することもあります。

Q. 運動も股関節の痛みに対して効果があるのですか?

水中ウォーキング イラストA. 股関節周囲の筋力を鍛えることで、股関節にかかる負担を減らすことができます。運動療法とは、関節や筋肉の状態に基づいて適切な運動を行うものです。筋力を鍛えるというと、ハードな運動をするほど効果が得られると思われがちですが、そうすると逆に症状が悪化したり、別の部位に負担がかかってしまったりすることもあります。
過度な負担をかけない運動としては、例えば、水中ウォーキングなど、股関節の外側の筋肉にはたらきかける運動などが効果的です。股関節の外側の筋力が衰えると、歩行の際に骨盤が揺れ、それに伴って背骨も揺れて腰にまで負担がかかるのです。そうしたことを踏まえ、適切な部位を正しい方法で鍛えることが大切になります。

独立行政法人 国立病院機構 宇多野病院 笠原 仁菜 先生Q. 手術の場合は、どんな手術になるのですか?

A. 寛骨臼形成不全がある場合は、寛骨臼を整えるための骨切り術(こつきりじゅつ)を行い、股関節にかかる体重の負担を分散させる手術もあります。しかし、関節の損傷が進行している場合は、股関節をインプラントに置き換える人工股関節置換術(じんこうこかんせつちかんじゅつ)になります。
しかし、あくまでも手術をするかどうかを決めるのは患者さんご自身です。お仕事をされている場合は、「手術して早く治し、職場復帰したい」というケースが多く、ご高齢で身の回りのお世話をしてくれる方と同居されている場合は、手術を選択されないケースもあります。一概にレントゲン画像や股関節の可動域(かどういき:関節を動かすことができる角度の範囲)だけで、手術を勧めることはありません。最近はインターネットで調べられて、「私はこの症状に当てはまるから、この手術になりますよね?」という患者さんもおられますが、治療は患者さんの症状や生活スタイルなどに合わせて、お一人おひとりオーダーメイドで行うものです。骨の状態や症状、生活環境はそれぞれで違うので、患者さんが生活において何を改善したいのかをすべてお聞きしてから、私は治療法を提案しています。

Q. 人工股関節置換術とはどんな手術なのか、具体的に教えてください。

A. まず、変形している寛骨臼を丸く削ってお椀型の金属を埋め込み、その中に軟骨の代わりになるポリエチレンライナーを装着します。次に、変形した大腿骨頭を取り去ります。そして、大腿骨の中に土台となる棒状のインプラントを差し込んで固定し、その先端に骨頭ボールをはめます。このふたつを合体させて、くるくると動かせるようにします。

人工股関節

股関節の変形が進行すると、骨同士が当たってすり減り、動かしにくくなったり、痛みが強くなったりしますが、人工股関節に置き換えることでかなり症状が解消されます。また、股関節の骨が削れて、脚の長さが短くなっている場合は、周囲の筋肉もそれに応じてたるんでしまっています。そのせいで筋力が発揮できていなかった場合、手術で脚の長さを元通りに調整することで、筋肉がピンと伸びて正しく筋力が使えるようになります。骨盤を振りながら歩いていた方も、脚の長さがそろうことで正しく歩けるようになります。

独立行政法人 国立病院機構 宇多野病院 笠原 仁菜 先生Q. 寛骨臼と大腿骨に使うインプラントには、種類があるのですか?

A. どちらのインプラントにも、骨に固定する際にセメントを使うタイプと、使わないタイプがあります。当院では通常、寛骨臼側にはセメントを使わないタイプ、大腿骨側にはセメントを使うタイプを使用しています。寛骨臼側はインプラントの表面処理の進化によって固定性が得られやすくなったのでセメントを使用しませんが、大腿骨側は骨の変形が強い場合や、骨粗しょう症で骨がもろくなっている場合があり、セメントで固定するほうが確実だと考えています。

Q. インプラントは以前に比べて、進歩していますか?

A. 素材や形状がかなり進歩し、サイズも以前に比べて豊富になりました。ポリエチレンライナーの質も向上し、クロスリンクポリエチレンという摩耗が少ない素材や、水の膜のようなものをつくって滑りを良くする「Aquala(アクアラ)」という特殊な表面処理の技術も開発され、人工股関節の耐久年数が長くなりました。以前は約15年といわれていましたが、現在は20~30年は大丈夫といわれており、この先はもっと耐久性が高い素材が出てくる可能性もあります。最近は、80歳代、90歳代でもお元気な方が増えているので、耐久性はとても重要になります。

Q. 手術のやり方も進歩しているのでしょうか?

A. 今では、関節に進入するアプローチ方法が数多くあり、それぞれにメリット、デメリットがあります。執刀医が慣れているアプローチで行うのが、一番良いと思います。私の場合は、前側方から侵入し、中殿筋(ちゅうでんきん)を分け入って、その下にある小殿筋(しょうでんきん)の一部を切開して施術しています。以前は、骨切りをしたり、筋肉を骨からはがしたりしていましたが、アプローチを改良し、大事な筋肉をなるべく傷つけない方法にしたことで、安定性が高まりました。この方法だと出血もかなり少なくなります。以前は術前に自分の血を貯めておいて、手術の際に輸血を行っていましたが、もう不要になりました。

アプローチ法

Q. 患者さんの身体的な負担が軽くなりますね。術後は、どれぐらいで退院できますか?

A. 入院期間は、患者さんのご希望によってさまざまです。創部の治癒に7~10日間ほどは必要です。当院には、回復期リハビリテーション病棟があり、短い方で14~21日間、長い方で最長90日間の入院リハビリが可能です。もともと筋力のある方で、術後に段差の昇り降りなどの動作ができるようになって不安がなければ、早期に退院していただくことも可能です。ただ、回復に時間を要するご高齢の方で、一人暮らしをされている場合などは、いろいろな日常動作に自信が持てるまで入院を希望されるケースが多いです。
急性期病棟しかない病院で手術を受けられた場合、2~3週間で退院をすすめられることが多く、その時点で退院できない方が当院の回復期病棟へ転院して来られる方もおられます。また、急性期病棟と回復期病棟では、1日にリハビリできる時間の規定が異なっており、回復期病棟だと、より長時間、集中的にリハビリに取り組むことができます。当院では、理学療法士と作業療法士のもとで、じっくりとリハビリを行っていただけます。

Q. 介護を必要とする高齢で独居の方は、退院後の生活が不安でしょうね。

A.当院の回復期病棟には医療ソーシャルワーカーが常駐しており、介護保険の区分変更をおすすめしたり、まだ介護保険を申請したことがない方には入院中に申請されることをご提案したり、しています。認定が下りるまで時間がかかりますので、その間は病院でリハビリ生活を続けられ、認定後に保険適用となる介護用品などを手配し、準備が整ってから退院されると安心です。また、デイケア(通所リハビリテーション)やデイサービス(通所介護)などに通ったりして、できるだけ人と交流して体を動かしていただくようにお願いしています。

独立行政法人 国立病院機構 宇多野病院 笠原 仁菜 先生Q. では最後に、先生が整形外科医を志された理由を教えてください。

A. 父が整形外科医であり、私が幼いころ、大学病院に勤めながら研究をしていましたので、父の研究棟のそばで人工関節を入れた実験用の犬の散歩を私と2歳下の弟がしていました。また、父の患者さんが「あなたのお父様のおかげで、これだけ歩けるようになったのよ。」と教えてくださることもあり、幼いころから整形外科医の仕事に好印象を持っていました。父から医者になるようにいわれたことは一度もありませんが、人を元気にしてあげられる仕事に魅力を感じて整形外科医になりました。病気やけがのためにできなくなった動作が、治療によって再びできるようになったことを患者さんと一緒に喜び合えることは、この仕事ならではだと感じています。

※Aquala(アクアラ)は京セラ株式会社の登録商標です。

取材日:2019.11.7

*本文、および動画で述べられている内容は医師個人の見解であり、特定の製品等の推奨、効能効果や安全性等の保証をするものではありません。また、内容が必ずしも全ての方にあてはまるわけではありませんので詳しくは主治医にご相談ください。

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