先生があなたに伝えたいこと
【糸瀬 正通】健やかな生活を送るためには天然歯を保つことが大切ですが、たとえ天然歯を失っても、インプラントは「噛むための」重要な選択肢の一つになってくれます。
歯科糸瀬正通医院(福岡県)
いとせ まさみち
糸瀬 正通 先生
専門:インプラント、歯周病、咬合、審美、矯正
糸瀬先生の一面
1.最近気になることは?
孫の成長が楽しみで仕方ありません。
2.休日には何をして過ごしますか?
ゴルフや温泉、映画鑑賞でリフレッシュしています。お気に入りは佐賀の三瀬エリアです。車で出かけて温泉に浸かり、おいしいものを食べて映画館へ... 私にとって最高の休日です。
Q. インプラントとは?
A. インプラントとは人工歯根のことです。失われた歯の部分にインプラントを埋め込んで、天然歯を代替するものです。構造は、歯根部分の「インプラント体」、被せ物である上層部分の「歯冠(しかん)」、その2つをつなぐ「アバットメント」の3つから成ります。
Q. どんな素材でできているのでしょうか?
A. 「インプラント体」、「アバットメント」は主にチタン合金が使われており、ほかに金合金やジルコニアなどが使われているものもあります。チタン合金は生体親和性が高く、強度も十分にあります。さらに骨との結合性を高めるために、表面をざらつかせる「酸エッチング処理」という化学的処理を施したものや、骨の成分である「ハイドロキシアパタイト(HA)」を表面処理して骨とインプラントを生化学的に結合させるなど、さまざまな技術がインプラントに搭載されています。
上層の「歯冠」部分に使われる素材には、硬質レジンやセラミックスなどがあります。噛む力や治療予算によってどの素材を使うかを選択します。男性は、噛む時に60~80kgの力がかかるため、強度の高いジルコニアを勧めています。硬質レジンは、加工性が高く、形状を調整しやすい特徴があります。インプラントには上下左右、あらゆる角度から力が加わるため、そのバランスが崩れてしまうと肩こりや偏頭痛をきたす可能性があります。かみ合わせを整える意味でも、素材選びはとても重要なのです。
Q. インプラント治療は誰でも受けられるのでしょうか?
A. 基本的に、あごの発育が落ち着いた健常な成人であれば、誰でも治療を受けることができると考えられています。
また、天然歯がなくなっている、あるいはほとんど残っていない場合でも、犬歯のあたりに2本インプラントを埋め込んで入れ歯を磁石で固定する手法もあります。
ただし、重度の糖尿病や骨粗鬆症(こつそしょうしょう)の症状がある場合は治療できない場合があります。
いずれにしても、どの医院でも治療前には必ず疾患と服薬状況を問診します。必要があれば、患者さんのかかりつけ医と連携して治療を進めますので、お気軽にご相談ください。
Q. インプラント治療にはどのくらいの費用がかかるのでしょうか?
A. 私の医院がある福岡では、1本20~30万円が相場だと思います。全国的にみると、それより少し高くなると思います。骨の中に埋め込むインプラント体と歯冠部分の被せ物、それらを連結するアバットメントのそれぞれの素材によって費用が変わってきます。
もし素材の選び方や費用に納得できない場合は、セカンドオピニオンという選択も可能です。骨の状態や噛む力は個人によって違いますので、患者さまお一人お一人に合った総合的な診療をしてくれる、信頼できる歯科医師を探すのが一番です。かかりつけの歯科医院でインプラント治療を行っていなくても、その先生から紹介してもらえると思います。
Q. インプラント手術の流れを教えてください。
A. 麻酔をして歯茎を切り、ドリルでインプラントを埋入する穴を骨にあけて、その穴にインプラントを埋入します。特殊なケースでなければ、インプラント1本あたり約30分、一般的には約1~2時間で治療が完了します。麻酔の効果は術後1時間ほどで薄くなりますが、それほど強い痛みを感じることはありません。術後2~3時間で痛みはほぼ治まります。もし、6時間ほど経っても痛みを感じる場合でも、あらかじめ痛み止めを処方しておきますので、それを服用していただきます。翌日には、痛みは完全になくなっているはずです。
麻酔が切れたら、食事も生活も普段通りで問題ありません。ただし、手術当日は激しい運動は避けた方がよいです。あとは、抜糸するまでは歯ブラシを強くあてないようにすることです。経過が順調なら術後1週間程度で抜糸します。その後は、いつも通りに歯磨きをしても問題ありません。
Q. 痛みや腫れが出るのはどんな場合なのでしょうか?
A. 万一、痛みが数日続いたり腫れたりした場合は、術後に感染症を引き起こしている可能性がありますので、すみやかに担当医に相談してください。
Q. 「インプラント」と「入れ歯」との違いはなんでしょうか?
A. 入れ歯は、残っている天然歯にバネをかける必要があります。バネをかける部分には大きな力が加わるため、そのまま使い続けると歯を喪失してしまうこともあります。
また、費用の面でも入れ歯とインプラントは大きく異なります。保険適用内の入れ歯なら、治療費は通常1万5000円程度ですが、インプラントは保険適用外の自費診療になります。
Q. インプラントに代わる治療は他にもあるのでしょうか?
A. 失われた歯の周りのきれいな歯を削って義歯を固定する「ブリッジ」という方法もあります。「入れ歯」と同様に保険がきくので費用は1~2万円で済みますが、きれいな歯を削らなければなりません。
長期的に考えるなら、天然歯をきれいな状態で残せるインプラントがお勧めです。審美的にもインプラントのほうが優位なので、患者さん個人の選択次第です。予算を優先するか、QOL(Quality of life)を重視するか、です。インプラント治療の決断は、自分の将来をどう過ごすか、ということを選択する機会でもあるのです。
Q. インプラントを長く使い続けるには、どのようにしたらよいでしょうか?
A. 健常な状態で歳をとり、定期的なメンテナンスを欠かさなければ、インプラントは基本的には「一生もの」と考えてよいと思います。医院によって差はありますが、通常は治療に5~10年の保証期間が設けられているので、もしトラブルがあればすみやかに担当医に相談しましょう。ちなみに私の患者さんで、治療してから今年で40年目の方もいらっしゃいます。
Q. 最後に、健康な歯を保つための秘訣があれば教えてください。
A. 定期的に歯のメンテナンスをすることはとても重要です。理想のペースは半年に1回、歯と歯の間や、歯と歯茎の間の汚れをプロに除去してもらえば、虫歯や歯周病になる可能性はかなり低くなります。
自宅では、歯ブラシと一緒に歯間ブラシやデンタルフロスを使う習慣をつけておくのがよいでしょう。あとは、朝昼晩の食後と就寝前にきちんと歯磨きをすることです。正しいブラッシングの仕方を歯科医院で習って身につけておけば、健康な歯と口内環境を保つことができます。
Q. 最後に患者さんへのメッセージをお願いいたします。
取材日:2018.5.22
*本文、および動画で述べられている内容は医師個人の見解であり、特定の製品等の推奨、効能効果や安全性等の保証をするものではありません。また、内容が必ずしも全ての方にあてはまるわけではありませんので詳しくは主治医にご相談ください。
先生からのメッセージ
健やかな生活を送るためには天然歯を保つことが大切ですが、たとえ天然歯を失っても、インプラントは「噛むための」重要な選択肢の一つになってくれます。